教授 興梠 博次
熊本大学大学院生命科学研究部呼吸器病病態学・熊本大学医学部附属病院呼吸器内科の理念は、地域・国際社会および患者に貢献できる診療・教育・研究を実施することです。この理念は、基本的には熊本大学医学部附属病院の理念と同じ骨格です。
臓器別診療のために組織改変にて呼吸器内科が設立され、私が初代の教授に就任しまして3年半が経過しました。お陰様で、多くの若い医師とともに私たちの呼吸器内科を発展させることができ、関連病院とともに診療・教育・研究連携が進化してきていることを誇りに思うとともに教室並びに関連病院の先生方に感謝を申し上げます。
今回、教授就任時に約束しました、「内科・呼吸器内科の診断学・治療学の診療・教育・研究を軸にして、臨床技能・問題対応能力・社会性を持つ基盤の広い医師・研究者・指導者を育成し、臨床の問題点を研究テーマとして基礎医学薬学ならびに他学部とリンクし、総合大学としてのネットワークを利用した一貫性のある研究を実現すること」が実行されているか検証しながら挨拶を致します。
私たち呼吸器内科は、附属病院の「理念・方針・指針集」に記載されている「医師のための診療基本指針」の原案を作成しております。その「基本指針」に従った診療を実施していきます。
科学的思考を持った医師・教育者・研究者を育成し、チーム医療により診療の機能と効率を高めて先端医療に参加しています。この試みで、呼吸器内科学の臨床能力が国際的レベルに引き上げることができたと自負しており、今後、臨床的研究で世界をリードしていくことを目指します。
呼吸器疾患は、膠原病や感染症など全身疾患の症状として肺病変が発症することも多く、呼吸器専門の診療とともに全体像が把握できる一般内科および救急・集中治療の臨床能力も必要です。そのために、幅広く内科診療を指導できる医師を育成しています。
附属病院内での診療科間の連携は非常に重要です。今日、チーム医療能力は、医師の大きな評価項目となっています。私たちは、呼吸器内科から、がん診療センター、集中治療部、救急外来、総合臨床研修センター、ICT、緩和ケアチームに人材を派遣しており、各々の医師は病院内の診療連携と教育連携のために多くの努力をしています。私もここ2年間、病院教育・研修担当の副院長そして総合臨床研修センター長として努力をしてまいりました。診療科や病院の壁を無くした診療連携ができ、新しい試みで病院をリードできる医師を育てたいと考え実行しています。今後は、呼吸サポートチームを病院全体に拡げる予定です。
これらのネットワークが重要視される医療環境の中で、心の柔軟性が医療スタッフに求められています。科学的な思考力を持つ医師、倫理観を持つ医師であるとともに、患者の心、患者・家族の背景を理解しながら、患者ひとりひとりに柔軟に対応できる医師育成を考えています。
医師の育成は、卒前教育、卒後研修、生涯学習にて成り立ちます。
卒前教育では、診療参加型臨床実習の基本構築を作り、教育効率の向上と教育規格の統一を行い、基本的な臨床技能、問題対応能力、社会性を獲得できる段階に到達させ、研修医教育にスムーズに移行できるように努力しています。呼吸器内科では、学生・研修医・専門修練医のために「呼吸器内科臨床テキスト」を作成し、ガイドラインに沿う基本的臨床能力を育成する為の教育をしてきました。また、臨床実習入門コースでは、各診療科間の教育・診療における横の連携に協力するようにシステムを発展させています。今後も、教科書・指導書の改訂を行い、教育効率を向上させ、優れた医師への育成システムを確立させて行きます。
研修医は、月平均3−4人の割合で、2−3ヶ月の単位で呼吸器内科を研修しています。それらの研修医は、驚くべきことに、短期間で最低限必要な内科・呼吸器内科の能力を獲得しており、私たちの教育プログラムが充実していることが示唆され、研修医からも高い評価を得ています。研修を希望の方は、是非一度、私たちの呼吸器内科を訪問してください。
専門修練医(後期研修医)育成では、内科認定医ならびに呼吸器内科専門医の資格を獲得する為のプログラム(中九州三大学病院合同専門医養成プログラム)を作成し実行しています。熊本・大分・宮崎の三大学において、優れた指導情報を交換しながら専門医を育成することは、診療や指導法がオープンとなり、専門修練医育成のための新たな試みです。
また、専門を決めずに内科全体の診療をしたいという希望者には、他の診療科あるいは関連病院と連携して希望に沿う指導をしますので問い合わせ下さい。
大学院教育では、研修医あるいは専門修練医として身に付けた問題提起・解決能力を研究にも応用できる創造的人材を育成しています。社会人大学院生の身分を選択することで、診療をしながら大学院での研究も可能です。現在、5人が病棟で診療をしながら社会人大学院生として研究もしています。また、2人は研究に専念しています。
これらの教育過程において、科学的で独創的で総合的な思考を展開できる自立した品格の高い医師・研究者・指導者の育成し、地域・国際社会および患者から高い評価を得られる大学・教室づくりを目指しています。この教育システムで得られた人材をもって、熊本大学および地域医療の質と効率のレベルアップに貢献していると自負しています。
呼吸器内科は、熊本県内のほとんどの中核病院に人材を派遣し、診療の連携はもちろんのこと、医師育成の連携、臨床研究の連携を実施しています。出身大学、出身の診療科を問わず、一般内科医を含めて、研究会を開催し、交流を深め、地域の診療レベル向上のために努力しています。
全国規模で情報を交換する為に、国立がんセンター東病院、国立国際医療センター等に国内留学をさせ、トップレベルの診療の交流を計っています。
内科・呼吸器内科として重要な疾患について、国際的に貢献できる独創性のの高い研究を目指します。私たちは、症例を丁寧に観察し、そこから得られたデータを集計し、その情報を解析して研究の方向性を決定して発展させる研究手法を実践しています。
喘息の研究では、アレルギー責任細胞として重要な役割を持つリンパ球、肥満細胞をコントロールして、アレルギー疾患の根治療法を目指しています。これらのアイデアは、膠原病の免疫責任細胞の研究、膠原病に伴う間質性肺炎の責任細胞の研究にも発展できると考えています。また、特殊な喘息である、アスピリン喘息の発症予測、Churg-Strauss症候群の病態解明にもつながると考えられます。咳の研究では、気道炎症における気道求心性神経刺激物質の解明を継続し、炎症の原因治療と刺激物質の制御をすることを目標に研究します。
原因不明の間質性肺炎について診断および治療に苦慮しますが、現在、その病態を臨床経過からまとめて責任となる細胞およびサイトカインを予測して治療への応用を考えています。
急性呼吸促迫症候群(ARDS)の呼吸管理に関する研究、発症病態に関する研究を臨床データを解析しながらすすめており、臨床研究と基礎研究を連動しながら発展させています。
肺癌の内科的治療では、国内・国際チームと連携して新しい治療法についての治験に参加しています。また、EGFRを含めた分子標的に対する治療においても、その有効性と危険性の予測の研究を展開しており、癌細胞の特性の解明と根治療法を目指しています。さらには、肺癌の早期発見、予防を実践していきます。
再生医療は、呼吸器内科の領域でも重要な分野です。不可逆的疾患であるCOPDおよび間質性肺炎に対して、呼吸器のprogenitor cellsの研究にて、病態の進行を阻止し破壊された肺組織の再生・修復治療を目指すべきですが、まだ、進展していません。これらの分野にチャレンジをする若者を期待します。
以上、私たちの呼吸器内科の理念および基本方針に沿って、これまでの歴史と今後の方向性を示しました。多くの皆様と有意義な交流ができることができますならば幸甚に存じます。
■ 興梠教授経歴
| 昭和52年3月 |
熊本大学医学部卒業 |
| 昭和52年4月 |
熊本大学医学部第一内科入局・同附属病院研修医 |
| 昭和55年10月 |
熊本大学医学部集中治療部(1年間) |
| 昭和56年10月 |
熊本大学医学部第一内科 |
| 昭和60年7月 |
熊本大学医学部第一内科助手 |
| 昭和61年1月 |
熊本大学より医学博士(乙497号)授与さる |
| 昭和61年7月 |
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(2年間) 心臓血管研究所へ留学:Jay A. Nadel教授(気管支喘息および咳嗽の研究) |
| 昭和63年7月 |
熊本大学医学部第一内科助手 |
| 平成4年4月 |
医局長(平成6年3月31日まで)> |
| 平成6年6月 |
講師 |
| 平成15年4月 |
熊本大学医学部附属病院呼吸器内科医局長 |
| 平成17年10月1日 |
熊本大学大学院医学薬学研究部呼吸器病態学分野 教授就任 現在に至る |
|
| 主な研究テーマ |
内科学、呼吸器内科学、特に気道疾患、気管支喘息、咳嗽、アレルギー免疫学、気道の薬理学、呼吸生理学 |
| 学会 |
日本内科学会(認定医、指導医)
日本呼吸器学会(評議員、専門医、指導医)
日本アレルギー学会、日本気管支学会
American Thoracic Society、European Respiratory Society |
| 賞 |
平成4年度日本胸部疾患学会(現、呼吸器学会)奨励賞
2000年アストラゼネカ喘息研究奨励助成賞 |